学術研究

ワクチンの皮内投与による免疫惹起のメカニズム

Science Report

ワクチンの皮内投与により、従来の筋肉内投与や皮下投与と比較してワクチンによる免疫獲得を高効率に行えることが示唆されています。

本レポートでは、どのようなメカニズムによってワクチンの皮内投与が免疫獲得に寄与するかを記載します。

監修:

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科

皮膚科学分野 教授 沖山奈緒子

皮膚の構造と免疫細胞の局在

 肌の構造は表皮、真皮、皮下脂肪、筋肉からなりますが、この内、皮膚は解剖学的には表皮と真皮のことを意味します。

 ワクチンを注射する際には筋肉注射、皮下注射、皮内注射に大きく分けられます。

 この内、当社が皮内注射の普及を目指している理由は皮膚に含まれる免疫細胞の密度が関係しています。

 皮膚の構造は最表面から順に角層、顆粒層、有棘層、基底層の4層構造からなる0.2 mm程度の表皮、および基底層に接する乳頭層、その下に広がる網状層からなる1-2 mm程度の真皮によって構成されます。

 体表から僅か2 mmのこの範囲には多くの抗原提示細胞が局在しているため、皮内注射では筋肉注射や皮下注射と比較して僅かなワクチン投与量でも高効率に免疫獲得能が惹起されます。

 特に表皮は体表における異物侵入への免疫的防御に重要な役割を担うため、僅か約0.2 mmの表皮内には抗原提示能を持つランゲルハンス細胞が高密度に局在しています。

 また表皮の下にある真皮にも抗原提示能を持つ多くの樹状細胞やマクロファージが局在しています。

 真皮は殆どが膠原線維 (コラーゲン)、弾力線維 (エラスチン)、細網線維 (レチクリン)からなる線維性タンパク質のネットワークからなり、その中を線維産生細胞である線維芽細胞や、リンパ球、樹状細胞、マクロファージ、肥満細胞、形質細胞、好酸球、好塩基球などの免疫細胞が局在します。

 樹状細胞、マクロファージは皮下組織や筋肉にも分布しますが、真皮内に特に高密度に局在しており、皮膚免疫における異物の貪食・分解、および抗原提示細胞としての役割を担います。

 これら皮膚に局在する抗原提示細胞は体表から表皮や真皮へ侵入した細菌やウイルス、アレルギー物質などの異物を取り込み、一部の異物に特異的な分子を細胞膜表面へ露出することでT細胞等の他の免疫細胞を活性化し、異物排除のための免疫が獲得されていきます。

表皮のランゲルハンス細胞および真皮の樹状細胞やマクロファージによる免疫獲得

 表皮に局在するランゲルハンス細胞や真皮の樹状細胞と、真皮以下に局在するマクロファージでは免疫獲得に働く機序が異なります。

 まず真皮以下に局在するマクロファージについては異物の貪食・分解を行う細胞性免疫が主な役割であり、異物の侵入やウイルス感染により活性化された後は好中球やナチュラルキラー細胞 (NK細胞) など他の貪食細胞を動員するサイトカインを分泌して免疫細胞の集簇を促進、つまり炎症を生じさせながら患部局所に留まり、異物の貪食を行います。

 また貪食した一部の分子を抗原として細胞膜表面に提示することで、抗体産生の司令塔となるヘルパーT細胞 (Th細胞) へ認識させ、抗体産生を行うB細胞の活性化による抗体産生の促進、抗体による異物排除という体液性免疫の起点にもなります。

 一方で、表皮に局在するランゲルハンス細胞や真皮樹状細胞は異物の貪食後はマクロファージと異なり近隣の所属リンパ節へ移行します。

 異物を取り込んだ樹状細胞は真皮以下に走行するリンパ管へ遊走し、リンパ管を取ってリンパ節へ移行します。リンパ節内には多数の免疫細胞が集簇しており、リンパ節内に移行した樹状細胞は細胞膜表面に提示した抗原を、免疫活性化の司令塔であるTh細胞を活性化し、B細胞による抗体産生や、強力な細胞傷害細胞であるNK細胞や細胞傷害性T細胞 (CTL) の感染細胞の殺傷を誘導します。

ランゲルハンス細胞とマクロファージによる免疫獲得の違い

 ランゲルハンス細胞とマクロファージの大きな違いとして、マクロファージは未熟なT細胞を活性化する力はありませんが、ランゲルハンス細胞や樹状細胞は抗原を一度も受容したことのない未熟なナイーブT細胞から免疫機能を備えて成熟したエフェクターT細胞への分化を誘導することが出来ます。

 マクロファージとランゲルハンス細胞・樹状細胞の免疫獲得は誘導する免疫に違いがあります。

 マクロファージはあくまで細胞性免疫が主な役割であり、抗体産生の惹起能は樹状細胞には劣ります。

 一方でランゲルハンス細胞や樹状細胞ではナイーブT細胞から各種のエフェクターT細胞へ分化させる誘導能力があるため、細胞性免疫と体液性免疫の両方の強力な起点となり、マクロファージと比較して強力な抗体産生を誘導することが出来ます。

 ランゲルハンス細胞は皮膚外の蛋白レベルの抗原を取り込むことが出来る一方、真皮樹状細胞は真皮内に入ってきた抗原を取り込んで抗原提示します。

筋肉内投与や皮下投与と比較した皮内投与によるワクチンの高効率な免疫獲得作用

 このため、主にマクロファージによる免疫獲得となる筋肉注射や皮下注射と比較して、よりマクロファージが高密度に局在し、また樹状細胞による強力な免疫獲得能を持つ皮内投与はワクチンによる免疫獲得を高効率に行えることが示唆されています。

以上

文責

株式会社ライトニックス

技術企画部 部長 / 薬事(QMS 国内品質業務運営責任者)

伊純 明寛

監修

東京医科歯科大学

大学院医歯学総合研究科 皮膚科学分野

教授 沖山 奈緒子 先生

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